センター長あいさつ

九州大学 炭素資源国際教育研究センター長
林 潤一郎
 

この数年、地球規模での資源・環境・エネルギーの現状が人類の未来にとって深刻な問題を提起することが広く社会で認識されるようになっています。発展途上国の急速な経済発展は、エネルギー資源を含むさまざまな資源の消費の増加につながり、また、その使用は時として国境を越えた環境汚染へと展開しています。現在は沈静化していますが、2008年春から夏の原油価格の高騰はガソリン代という身近な問題として家計を直撃したことは記憶に新しいところです。表面的な原油価格の低下で「のど元過ぎれば熱さを忘れ」かねない状況ですが、現実には地球全体の経済活動が増大しているため、資源の枯渇と地球温暖化、環境汚染の深刻化は、待ったなしに取り組まなければならない問題です。

九州大学炭素資源国際教育研究センターは、このような現在の世界が直面し、かつ、未来での解決を図る必要がある地球規模の環境・エネルギー問題をターゲットにしています。現在確認されている埋蔵量から推定されている炭素資源の可採年数は、石油が41年、石炭が147年、天然ガスが63年、ウランが85年とされており、単純計算では今世紀末にはこれらの資源の枯渇に直面します。また、炭素資源の燃焼は、温室効果ガスである二酸化炭素の発生が不可避です。他方において、炭素資源は人間の活動に不可欠な、プラスチック、衣類等の原料であり、これなくしては生活が成り立ない貴重な資源です。また、炭素資源の化学利用が、IT革命に代表される低消費エネルギー社会実現の1つの鍵となっていることは注目すべき点です。

この問題の解決の鍵は、炭素資源の開発・利用戦略です。再生可能エネルギー資源、新エネルギーの開発が進められていますが、近未来で炭素資源の代替になるものはまだありません。原子力は危険性の問題、水力発電は環境破壊が常に懸念されます。近未来的に炭素資源のエネルギー利用を続けなければ人類は必要なエネルギーを手にすることができません。これらの状況で、人類は50年、100年、さらにその先を見据えて、限りある炭素資源をどのように、効率的に有効利用していけばよいのでしょうか?

炭素資源問題の象徴の1つに石炭の利用があります。石炭は地球に偏在せず、また、現在の計算で1世紀以上の可採年数をもつ利点を持っています。一方において、石炭の利用は複雑な技術を必要とします。また、CO2の発生する割合も多く、また、窒素酸化物や硫黄酸化物等の環境汚染物質も多く発生します。石炭ガス化に代表される石炭の環境汚染なき効率的利用、環境負荷なき資源開発、効率的資源転換、ゼロエミッション、の科学技術はその解の1つであり、その成果は世界に多量に存在するオイルシェール等の未利用化石資源から、再生可能なバイオマスへと拡張できます。同時に、石炭や炭素資源に関わる問題を広い視野でとらえると、環境経済・政策論から、環境変動の予測、実測、そして、現実の環境問題対策までを、地球規模で理解し、問題解決を図る必要があります。さらに、やはり炭素資源に限りがある以上、最低限のエネルギー利用、炭素資源利用で、人類の豊かな生活を持続していくためには、革新的なエネルギーの効率利用技術や省エネルギー技術の一層の推進が必要です。また、炭素資源は化学原料でもあることから、低消費エネルギー社会を支える炭素資源由来の材料開発やエネルギー機器の開発利用は、イノベーションを創出する鍵と考えられます。

炭素資源国際教育研究センターは、これらの視点にたって、総合的、多角的視点からの、炭素資源の効率的利用、地球環境保全、そして、低消費エネルギー社会を支える新科学技術、を融合させた新学術領域「新炭素資源学」の創造を目指します。これらの目的達成には、最先端の炭素資源研究に携わる、産業界を含む石炭利用の現場を知り、地球環境の実態を知り、急速に変動する環境の世界的変動を解析、予知し、実践的対策を立てうる、国際性と現実対応能力に優れた研究活動、人材の育成及び地域や国際的な産学官の連携活動が必須です。本センターは、国際連携、地域連携、産学連携を取り入れて、総合的な炭素資源に関する独創的な先端研究を生み出すとともに、アジアで活躍できる人材を育成し、学術研究機関、企業、および、国際機関へ展開するネットワークへの飛躍を図ってまいります。