炭素資源国際教育研究センター発足に当たって

九州大学 炭素資源国際教育研究センター 特任教授
持田 勲
サブプライムローンの破綻を皮切りに、アメリカ発の信用バブルが破裂し、民間信用の収縮、資金流通の停止、消費の急速な減退、雇用収縮の連鎖が始まり、世界経済状況は低下の一途である。輸出に大きく依存していた日本経済も、先進国中最悪のマイナス成長に陥っている。世界の諸国が大幅な財政出動、信用保証により、消費の拡大による景気回復を目指しているが、未だ経済が底を打った実感がなく、不況脱出に顕著な効果も認められない。それでも、将来投資の前倒しによる景気刺激が各国の方針になっている。2010年の年末、欧米日の先進国は依然、経済状況が芳しくないが、新興国は既に強い成長域に入っている。先進国のなかで日欧の落ちこみが依然続いている。
  
ここで将来に確実に果実を収穫できる投資対象として、21世紀を見通した“エネルギーと環境”があげられている。人類の生存に関わる分野であることは、異議のないところであるが、21世紀のエネルギー需給がどう推移するかについて、先進国/新興国の成長の違い、経済合理性、技術水準、現実の社会を俯瞰した認識が重要である。耳障りの良いキャッチフレーズ、ママゴト遊びや精神論は感心できない。時代を把握した、時宣を得た継続的事業政策が最も大切である。専門家集団の社会への絶え間ない発信が期待されている。
 
21世紀のエネルギー資源は、低コストの生産利用が可能な化石資源を基礎に原子力、太陽(太陽光、太陽熱に加えてバイオマスや風力、波力等、太陽エネルギーを起源とするすべてのエネルギーを含む)に依存することは疑いがない。これらエネルギー間の推移のタイミングを見極めることが必要であり、さらに推移を支える投資原資が確保できなければならない。新興国、発展途上国が、今後莫大なエネルギーを消費しながら、先進国の生活水準に達する過程に必要な資金を充当できる経済社会とエネルギー資源を担保しなければならない。
 
エネルギー資源は直接(主として燃焼)、あるいは利用しやすい2次エネルギーに変換されれば、更に高度に利用できる。変換を利用して、限界迄の高効率が求められる。ここで2次エネルギーは電力、炭化水素、水素、熱等が考えられる。2次エネルギーの特性を充分把握して、1次エネルギー資源消費の最小な利用形態、利用効率、利便性を考えるべきである。
 
一方、エネルギー資源の消費は、地球や地域環境に影響をもたらすことは避けられない。地球という巨大なバッファーに影響を与える程の消費レベルに既に達しており、今後、消費の拡大が続けば、相当の配慮が必要になる。CO2排出規制については、CO2の地球温暖化影響への疑惑、排出削減を世界が負う合意がない状況に陥っている。日本がひとり気負う愚はなくなっている。加えて、化石資源供給が新興国の強い需要によって、タイトになることは疑いない。従って、第一に消費の削減、第2に排出された負荷の低減になる。消費の削減は第一に欲望の規律である、第二に利用効率の向上である。負荷はエネルギー消費に直結する。現在、最大かつ最も対応が困難な負荷が、化石資源消費によるCO2排出である。加えて熱排出等の負荷と、副生する有害物の排出に伴う負荷とがある。こうした認識から、エネルギー政策の基本が次のように考えられる。
 
(1) エネルギー資源遷移の時期に適合した対象の選定と持続的利用
(2) エネルギー利用の高度化高効率化限界への挑戦
(3) 地球上のCO2濃度の安定化と、そのための化石資源利用時期におけるCO2貯留
(4) エネルギー利用の生み出す価値を創造する社会
(5) こうした技術、経済社会を支える人材の育成
に注力されるべきであろう。
 
こうした認識に立って、九州大学炭素資源国際教育研究センターは発案され、政府、自治体、産業の支援を得て発足、今後の展開が広く期待されている。国内外の期待に答え、さらに先導する意義を強調したい。ここで炭素資源とは一義的には石炭、石油、天然ガスが挙げられる。これらの時宣に即した均衡のとれた高度高効率の生産精製利用技術と、それを支える基盤科学の研究、開発基盤の構築と人材の育成がセンターの任務である。環境負荷低減のための高効率排出CO2処分も、当然視野に入れている。これらの資源から電気、炭化水素、水素等の二次エネルギーの生産高度利用も、本センターの直接対象である。
 
これらの研究に対して、これら資源から誘導される材料のエネルギー環境分野に向けた生産や応用もセンターの研究対象である。材料中、炭素材料は燃料電池、畜電池の鍵材料で、原子力や太陽エネルギー利用においても重要な役割を果たす。高機能材料の低コスト生産には総合的な科学と技術の協力による革新が不可欠で、産学共同の妙味が内在している。
 
さらに有機化学、高分子化学から電気発光材、増感材、液晶、電解液、電極等エネルギー変換を支える材料が生み出せる。シリコンは機能金属の代表である。あらゆる化学変換には、“触媒”が有用である。従来の枠を超えた触媒の発想は、変換に要求される機能性変換のダイナミックスを理解し、構造を把握するところから始まる。こうした材料の機能高度化は、その構造の理解と構造設計に連続することに健がある。センターの研究内容に厚さと深さ、先端性の原動力となろう。
 
こうした科学技術の成果は国内の産業を支えるばかりでなく、国外の必要に応じて移転する技術やビジネスの対象であり、大学や研究機関が研究する糧でもある。科学技術も経済政策の側面を離れては、組織は維持できず、また資金獲得は人材育成に不可欠であり、成果の社会発信の証明でもある。
 
こうして本センターは、石炭等化石資源を中心とするエネルギー環境に関するすべての分野を、その専門性に濃淡あるものの取り組み、技術や成果を結合して、世界に発信できる革新性、確実性、多様多面性に磨き上げていく。このために国内外の産学官との強い連携連帯、協力を求めていく。
 
センターとは下に示した石炭を高度利用する次世代ガス化技術、石炭利用で排出させるCO2、CCS技術の開発国家プロジェクトに参画する、電力中央研究所との基礎基盤、応用の連携研究を実施すると同時に、現行のガス化プロセスの基盤課題の根本的解決を産学共同で実施する。将来のあるべきガス化の方式として、触媒利用にも挑戦する。高炉コークスや焼結用炭素についても、現在と将来の技術をみながら、産学連携の下、将来に向けた研究を進める。
 
停滞している日本の石炭液化技術についても、国際連携のなかで展開する道を開く原点を構築していく。石油や天然ガスについても、国際連携の中で日本の科学技術発信基地としての役割を果たしていく。
 
水と大気の資源環境問題も益々大きく、世界にニーズが存在している。日本の持つ技術、九州大学の研究力を結合して、展開できると確信している。
 
加えて、新しいエネルギー環境材料に磨きをかけて、世界発信、商用化も追及すべきである。
 
これらの活動において、単に個別の技術を掲げるのみにとどまらず、産業として成立するモデルの中に位置づけ、モデルの全体像のなかに生かす構想が何より大切である。産業の発足、つまり起業は社会の任務であり、大学人もそのための貢献を真摯に考え、行動する必要がある。日本にその源泉を求めることができなければ、世界に一緒に行動できる仲間を作りだすことも、大学の任務である。こうした分野における“人材”の発掘と育成も大切な目標である。広い視野と確実な技術、魅力のある人材の育成を研究活動産業協同、社会協同を通して、実行する。これらの活動の資金を世界から獲得、その信頼を高めることが、本センター発展の原点になろう。
 
センターの正式発足には、九州大学総長の主唱に始まり、学内の協力支援を戴いて設置できた。経済産業省、文部科学省の手厚い支援によって軌道にのりつつある。学内外の多数の人、組織に深謝すると同時に、これ迄以上に、国内外に広く開かれるために、広く厚い支援をお願いする。加えて、新たな仲間の参加と積極的活動を期待している。
 

2010年12月