新しい炭素資源の知の拠点として

(財)新産業創造研究機構
大隈 修
  新炭素資源国際教育センターは、「石炭エコイノベーション」を実現するための研究と人材の育成を目指している。歴史的に石炭等重質炭素資源とその利用に関する膨大な知の集積がある九州大学に炭素センターが設立されることは、同分野の研究者・技術者が減少し、蓄積された技術の継承が懸念される現在、極めて時宜を得たものである。
  経済成長、資源・エネルギー、地球環境というトリレンマの同時克服が必須とされ、低炭素社会の構築が叫ばれる昨今であるが、化石エネルギー資源が1次エネルギー供給の大半を占めている現状においては、そのクリーン利用と効率改善が最も実効のある対応である。特に、今後のエネルギー需要を考えると、資源量が豊富で環境負荷の大きな石炭や非在来型化石資源の利用技術の開発・改善は極めて重要であり、炭素センターが産業界と連携して育成しようとする人材こそ、今後求められる人材といえる。
  私は1972年に就職し、炭素材料の研究に触れた後、1976年から石炭と係わり、その後20年にわたって豪州褐炭液化プロセスの開発に従事した。その間、プロセスの全工程にわたって、基礎研究から豪州での大型パイロットプラントでの実証まで、一貫して経験することができた。その後、石炭の熱分解や低品位利用技術開発にも関与した後、1998年に財団に出向した。現在、環境・エネルギー分野を担当し、バイオマスの利活用等に取り組んでおり、石炭転換技術の開発で得た知識・経験が、バイオマスの転換技術開発に大いに活用できている。また、中核人材育成事業では、アドバイザーとして講義を聴講する機会を得て、改めて勉強させていただくとともに、体系的な講義が知識の再整理に極めて有効であることを実感しているところである。
  私が石炭に係わり始めた1970年代後半は、石油危機後の代替エネルギー開発に産学官を挙げて取り組んでいた時期である。大学、国研、多くの民間企業が、石炭の液化・ガス化等の新規プロセスの研究・開発に取り組み、学会等での討論も熱気を帯びていた。また、同時に石炭等の重質炭素資源の分析技術や構造解析等、基礎的な分野の研究も大きく進歩し、鉄鋼業界や電力業界等の石炭利用に貢献してきた。このような雰囲気下、当時は新参者であった私達は、プロセス開発に追われる一方で、学会での議論等に参加し、もまれながら徐々に知識・経験を身につけていった。
  しかし、その後の石油価格の低位安定の時期を経て、液化等の新規プロセスは実用化に至らず、CO2問題等もあってか、石炭関連技術の開発への関心は次第に薄れ、石炭の熱気の中で育った我々団塊の世代は既に定年を迎え、先輩方はもとより、後輩達も一線から退場しつつあるものが多い。これは学会誌等に掲載される石炭関連の論文の数の減少に端的に現れている。一方、今後の石炭や非在来型重質化石資源の利用の必然を考えると、これまで蓄積されてきた石炭利用技術を継承・発展させていく若手人材の育成が急務であり、このような人材を産業界と連携して育成することが、炭素センターに期待される役割である。また、炭素センターには、我が国のみならずアジア、ひいては世界で活躍できる人材の供給に加えて、石炭等炭素資源の知のセンターとして情報発信、技術的・人的交流の核として発展していくことを期待してやまない。