石炭技術の開発と人材育成

(財)石炭エネルギーセンター
牧野 啓二
  現在、九州大学では石炭等の中核人材を育成するためのプログラム開発が19年度から3年計画で進められている。私は現在勤務しているJCOALに移る前に、重工業会社にて大型ボイラの設計やクリーンコールテクノロジー、CCS等の研究開発にちょうど40年間携わり、成功やら大失敗やら多くの経験をしてきた。その関係から、この事業に3人のアドバイサーの1人として関わらせていただくことになったものと思っているが、これは私にとってすばらしいことであり、プログラム全体を見る機会をいただいたことに大変感謝している。このような背景から、本事業が大きく発展することを願い、膨らむ期待を述べさせていただく。

  随分前に私が石炭焚ボイラの設計に初めて取り組んだ頃は石炭の基礎的な知識は乏しく、技術提携先から受領したマニュアルを必死で勉強し、見たこともない石炭について理解したつもりになって専門家気取りで話をしたものである。しかし誰かに一皮めくられるとそれ以上の知識はあやふやとなり、その場は何とかお茶を濁すにしても、後からそのことについて勉強し、漸く自分の知識とすると言った状況であった。我国の石炭焚ボイラは海外の場合と異なり、世界各地から輸入したいろいろな炭種を焚く必要があり、しかも世界には例をみない極低NOx燃焼が要求されていた。そのためには受領マニュアルだけでは不足で石炭に関する高度の知識が必要となり、会社の技術研究所などと協力して、実験室レベルの基礎試験から初め、大型の試験炉による各種試験を経て実用技術レベルを高めていった。その結果、極低NOx火炉の開発、極低NOxバーナの開発に成功し、クリーンコールテクノロジーでは日本が世界の最先端との評価を得るにいたった。しかし極低NOx運転に伴う石炭特有の副作用も時には発生し、この解決を目指して石炭の基礎的な現象まで立ち返って新たな基礎実験なども繰り返し、何とかトラブルを解決しなければならないことも何回もあった。

  また、石炭焚プラントは、そのシステムの複雑さなどから、従来はなるべく負荷を一定で運転するベースロード用であったが、原子力発電の増加と共に石炭焚プラントと言えども柔軟な負荷変化運転が要求されてきた。具体的には負荷のデマンドに対応するために、早い速度で自由に負荷を変化できたり、運転可能な負荷範囲を広くする、起動や停止が短時間でできる、といったような高度な機能も要求され、そのために制御装置の高度化や微粉炭製造設備の改良、バーナの高度化なども必要になった。

  低NOx燃焼、脱硫装置、脱硝装置の採用により日本ではNOx、SOxについてはほぼ解決したとも言えるが、最近は人為的な二酸化炭素が原因とされる地球温暖化の問題が大きくクローズアップされ、炭素分の多い石炭使用への風当たりが強くなってきており、新たな石炭焚発電プラントの計画を断念せざるを得なかったケースも出てきている。しかしエネルギーを輸入に頼るしかない日本の事情を冷静に考えてみると、どうしても石炭を主要燃料の一つとして使ってゆかざるを得ないことも事実である。現在は電力の約20%は石炭焚火力発電により供給されているが、電力供給の安全性を考えたら今後ともこの程度は石炭に頼る必要がある。石炭を使い続けるには、二酸化炭素対応を切り離して考えるわけにはゆかず、石炭の一層の高効率発電や二酸化炭素の分離貯留(CCS)の開発がどうしても必要になってくる。

  私は平成20年10月末に、ヨーロッパでクリーンコールテクノロジーやCCSの開発に力を入れているドイツとオランダを訪問し、その開発状況をつぶさに調査する機会を得た。ここでは高効率の石炭のガス化、700℃の蒸気温度を目指したアドバンストUSC、さらには二酸化炭素分離のための二酸化炭素化学吸収や酸素燃焼、二酸化炭素の地中貯留試験といった新しい技術に取り組んでいたが、2015年~2020年の実プラント完成を目指して多くの若い新進の技術者が活躍している姿も見ることができた。これらの開発は、私がやってきた低NOx燃焼などの謂わば第一世代のクリーンコールテクノロジーから、第二世代のクリーンコールテクノロジーともいえるのではないかと思えた。

  我が国政府は地球温暖化に対応すべく、「クールアース50」の提案を、国の内外に向けて発信している。この中では21の技術を選び、これらの開発に特に力を入れてゆくとしているが、21の技術のうち石炭に直接関係するものは、革新的高効率石炭火力発電、CCSならびに革新的製鉄技術である。これらはいずれも「innovative」であり、前記した第二世代クリーンコールテクノロジーとも言えるのではなかろうか。この実行には多くの優秀な石炭技術者が必要とされているのである。

  このような状況を踏まえると、現在九州大学で3年目に入ろうとしている石炭等化石資源高度利用中核人材育成はまさに絶妙のタイミングでInnovative Clean Coal Technologyに関する人材育成の場ではなかろうかと思う。本プログラムは、すばらしい教授陣やその方面に関わっている企業の最先端の研究者などを総動員して知識テーブルを提供し、メニューを揃え、しかも実習まで準備している。メニューも実に幅広く、大古の石炭の成り立ちなどの地質学的な内容から石炭の基礎物性、石炭の採掘、更には石炭をどのように上手に使うかといったクリーンコールテクノロジー、地球温暖化や関係法規、パブリックアクセプタンスなど殆ど網羅されている。しかも基本的には「講義+現場実習」をセットとしている。ここまで準備されているカリキュラムは、世界広しと言えども、この九州大学の場を置いては他にないし、私の勉強時代から見れば羨ましいの一語に尽きる。

  今後4~50年後には化石燃料としては油やガスは殆ど使い尽くされ、石炭しか残っていない時代が来るのかもしれないが、このような時代を見据えた本事業は、燦然と輝くものとなろう。この事業の中からバランス感覚のすばらしい石炭に関するInnovativeな国際技術者を次々と輩出したいものである。